前田美波里「BIBARI」

入手してからしばらくほっぽっといたんだけど、そういえばあったよなと何となく聞いています。というのもyoutubeとかで前田美波里の歌唱動画みるとだいたいスタンダードとかジャズを熱唱してる感じで、これは私好みじゃないな、でもアイテムとしては押さえとかないとまずいかなとかそんな感じでなんとなく入手はしたもののなかなか聞く気持ちにもなれなかったんですね。やっと聞いています。ジャケット素晴らしいですし。

柳田ヒロのアレンジプロデュースとして思い出されるのはやまがたすみこの「オルゴール」。フォーキーなロックサウンドというか、ブルースというか、ロック的なファズ感を残したポップサウンドで、なかなか凝っていた。それまでのやまがたすみこのイメージからするとオーバープロデュースかなとも思う感じではあったけど、出来は良かった。このアルバムも柳田ヒロのアレンジで、これを「早すぎるシティポップ歌謡」とか言うのはちょっと尚早でしょうよというか、柳田ヒロの出所を想起すれば根本がシティポップよりもっとロック寄りにいるのは明らかで、聞けばすぐに音に翳りが含まれているのは理解出来るはず。リズムのきざみ方はソウルやディスコのそれじゃなく、あくまでブルースやロックのそれ。ある意味、すごく70年代ど真ん中な感じよ。「夢追い人」「憧憬」あたりの小椋佳星勝アレンジも想起できるわ。ここまでの感触で私がこのアルバムのことそれほど嫌いじゃないの分かって頂けるかしら?

でですね、このアルバムで一番大切なキモの部分、前田美波里の歌唱についてなんですけど、たぶん、普通に歌わせたら目も当てられないものになっていただろうことは想像つくんだけど、実に上手く統制、抑制されていて、バックの演奏と噛み合っている。歌もの分かってるわ〜ってかんじの歌唱指導。それでもアンニョイというまでは抑えているわけでなく、やり過ぎ感もない。たぶん、普通の人のウィスパーでも美波里ならこのくらいになっちゃうのかな?ってかんじかしら。バランスって大事よね。元気すぎちゃうひとを普通くらいにコントロールするのって難儀だとおもうから、これをきちんと仕立てたプロデューサーはたいしたもんだわ。

一聴してこのアルバム、そんなにお洒落って感じの内容ではないし、派手ではないし、トーンはちょっと淡くて明るくないしでなんか普通に私好みな内容だったわ。でもね、これっていう曲が含まれていないのも事実でね、雰囲気でさらっと聞かせるタイプのアルバムで、それはそれでいいと思うのよ。名盤にはならないけど、そういうアルバムも必要よ。