連れションのお誘い

卒業が決まりとりあえず留年、それに伴う経済的負担などの恐怖から解放され気分も弛み気味だ。国試は一ヶ月後に迫っているのにね。なんでって、それくらい学園生活が最悪だったからよ。あんなところだれが喜び勇んでいきますかってくらいの牢獄だったから、そこから解放されるだけでもう至上に至り、「国試なんてとれればいっか」位の気分なのだ。三年も通ったんだから。私も物好きだわ。その学校も通学が二十日くらい、卒業まで二ヶ月くらいになっている。ホントに長かった。同じ事もう一度してみろと言われたら丁重にお断りする事だろう。クラスメートにDokakaが居るとかじゃない限り。いやそれでも、乗り切れる自身がない。ごめんねDokakaちゃん。

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土曜日の授業。前日に秘密の新年会があり、飲み過ぎた。授業中は意識を失っていた。朦朧としていると起きているのか寝ているのかよくわからない状態になり、目を開けて見えているつもりなのに目の前で動かしている手が見えなかったり、感触はあるのに視界に入ってこなかったり新手の幽体離脱みたいな状態になる。どうも夢の中で現実と同じ状況の夢を見ている様だ。起きても寝ても同じ風景が眼前に広がる。流石にこれは初めての経験だ。気が付けば授業の終わりのチャイムが鳴った。もう帰る。階段をたらたら降りていると背後から声がかかる。成田三樹夫似のFさんだ。Fさんは仕事があるのでいつも帰りが早い。いつもなら挨拶くらいしかしないのだが今日は世間話に付き合ってくれる。階段を降りきると「ちょっとトイレ行きましょうよ連れション」と言う。「求人の張り紙をみて待っている」というと「いいじゃない、付き合い悪いなぁ」と憎まれ口をたたくのでしぶしぶ誘われる。例の如く私の思考はどこか朦朧としているのでなんかただなんとなく連れションしてしまった。その間もぼんやりと卒試のことを話したり放尿したりしていたが、Fさんが尿切りでナマコをブルブル振っているのが視界の端にわかり、少し現実に戻る。でも、麻痺は続いているのでFさんがナマコを納めた時点でまた朦朧に戻った。その後トイレを後にしてFさんは「ひとりの時間が欲しいなぁ~温泉でも行きたいですよー。マッサージよんでねー」みたいな事を言ってさいならした。Fさんとは一昨年の文化祭の時に私がさぼって隣町の酒場で飲んだくれていたことを話したら「じゃあ、こんど飲みに行きましょう」という約束がずっと保留でまだ生きている。国試の後にでもしっぽり行ってくるつもりだ。