枯木灘は遠くなりにけり

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ケンちゃんはあまりにも早く逝ってしまったから。物語は結ばれなかったけど放たれた威光は鈍くも希求に輝いていくものと思う。晩年の小説は長編で未完のものが多く未だに手を付けていないものもあるが「軽蔑」というストリッパーの話が好きだった。今読んでも好きだろう。この小説は唖然としている。崩壊した何かを前に主人公のストリッパーは佇む。男どもは小粒のへたればかりだ。ストリッパーは何かを見つめている。待っている。でもそれは変容してしまっている。それはかつての「路地」のようなものだったかもしれないし、その中にある熱い血のようなものかもしれない。魔物かもしれない。不条理がただされていく過程で頼りは手負い消えていく。恋愛小説の体はとっているが、愛とか別れとか言う以前に寂寥、喪失が立ちはだかって唖然とする女のすがたばかりが脳裏に浮かぶ。幻の男。見届ける女。原田芳雄がケンちゃんの追悼文かなんかで「あんな情けない男の話が遺稿になったのが心残りだ」みたいなことを言っていたけど。ケンちゃんの寂しさが伝わる傑作だったと今も思う。

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枯木灘は遠くなりにけり。でも秋幸はずっと勲章であり憧憬である。