少年時代見た

これは「愛されまくる少年の物語」でいいんだよね?
愛されまくる少年っていうのは、男子コミュニティでは少なからず私の世代でも確実に存在していて、それはいわばリーダーのアクセサリー的なポジションとしてたんぽぽの綿毛のごとくフワフワと存在している。偏った主張もなく牙をむくこともなくかといって深く結びつくこともなくフワフワしている。一種の菩薩的な俯瞰とでもいうかなんというか、生臭いことからは一歩退いた場所でフワフワしているのだ。彼らは属しながら属さない。それを許される特別な才能を有している。でいて、リーダー諸君どもは彼らに「女なんかいらない」と言わんばかりの友愛を注いでいる。
小・中学生の時のS、高校のTやMがまさにそれであった。
彼らは概して背が低く華奢で成績も取り立てて良いわけではないし優等生とは違う。いわゆる美少年というような可憐なタイプでもないし女子の受けはそれほど良くなかったが、瞬時に輪を和ませる力を持っており、とかくリーダー的男子には愛されまくっていた。その中のMに私は「この八方美人!」と嫌味をいいまくっていたのだけど、嫉妬。嫉妬からなの。そのMは卒業後半年でバイクでタクシーに衝突しフワフワと他界してしまった。
驚いたのはMの葬儀で遺族と同じ列に並び参列者を出迎えるMのリーダーの姿があったことだ。友達代表とか考えていけば良くあることなのかもしれないが、彼が率先してそこに並んだだろうことはすぐ想像ついた。その時ほど「Mは罪な男だ」と思ったことはなかった。そのリーダーと私はとってもウマが悪くむこうも私を嫌っていたが、事故の直後、私に電話で連絡してきたのはリーダーだった。入院先に見舞いに行った時道ばたで偶然会い私はただ「大変なことになったね」といい、むこうは無言だった。二週間ほどして意識を戻すことなくMは逝ってしまった。
学校時代、リーダーやら私のすき間をフワフワしているMにいらついたのか、リーダーが私の後頭部を銀玉鉄砲で撃ってきたことがあった。私は怒りリーダーと絶交する。だがMはフワフワやってくる「あんた八方美人なんだよ。わきまえないと刺されるよ!」Mはきょとんとして皆目見当がつかない様子でいる。そのうち悪口と履き違えて「八方美人なわけねーじゃん」とおどけるのだった。
Mは気のいい愛され系の男なわけで一緒にいて楽しくないわけはないのだが、鉄砲の件以降は私はMの一切をリーダーに預けた気でいた。嫌いな私にわざわざ事故のしらせを電話してきたのはそんな経緯があったからではないかと推測している。
そうそう、私はMのお見舞いに鉢植えを持参し親族にギョッとされのだが、親族の方々には失礼だったと思うけど、私のMに対しての複雑な気持ちを考えたらあれで良かったと思っている。